石川 美南のアーカイブ

折り返すマラソン走者のおほきなる呼吸がわれの呼吸こえゆく

あまだむ軽きジャンプの終るまで地球の自転やや遅くなる

いくたびも顎打たれたるボクサーのふたたびを起つ意志を恐るる

霧深きテニスコートにボール打つ少年の脛細ければ消ゆ

身の中にマブチモーターを仕込んでるとしか思えぬ奴の素振りだ

両親が出会ったという群青の平均台でおやすみなさい

のちの世に手触れてもどりくるごとくターンせりプールの日陰のあたり

せりあひの球辛うじて蹴り出だしはづみに体宙に浮きて墜つ

一夜漬けの一夜があらず文月に素手で試験に子は立ち向かう

水をあげてもあげても枯れる庭なのにあとからあとから観客が来る

春愁が人のかたちをしてわれに会ひに来てもう六人目なり

犬小屋はやみの住処となりはてて媼が見よといふ犬みえぬ

エンターキー押して改行のみをせしごとき一日(ひとひ)の果ての満月

ばら縷縷と続くばら園 ゆく先に花ある生(よ)などもはや思はぬ

すべての菜の花がひらく 人は死ぬ 季節はめぐると考えられる

エスカレーターいったん平たくなるところわりと長くて歩きだすところ

マンホールの上を行くとき水音を聴きとめて「川なの?」と妻は訊きたり

日本人は刻苦勉励をこのむゆえ最終回にクララは歩く

折り目よりちぎれゆく地図アラビアの海の青さをテープにとめる

デスマスクとられしおそれ水無月の油なす闇に顔をひたせば

てふてふのてんぷらあげむとうきたてば蝶蝶はあぶらはじきてまばゆ

いじめっこの名前わたしに記憶なしあんのんと生きていろよ名無しで

蝸牛つの出せ青葉の雨あとに人間のほかなべて美し

ながらへて脆き前歯を欠かしめし白桃の核を側卓に置く

起こす声聞こえてたけどクワガタの卵になって眠ってたから

妙にあかるきガラスのむかう砂丘よりラクダなど来てゐるやもしれぬ

ひ•な•あ•ら•れ フセインが鳥に撒きやりしちひさな食べもの闇夜に残る  

アスファルトの感じがよくて撮ってみる もう一度  つま先を入れてみる

みんなまけみんなまけぺらぺらのマスクに顔を包んであゆむ

雨にも眼ありて深海にジャングルに降りし記憶のその眼ずぶ濡れ

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