Archive for the '今日の一首鑑賞' category

水は青く、ないと言ひ掛けザラザラのプールサイドに膝抱へゐき

屋外は現在、屋内は未来、中庭は過去、につながりて夜の秋

みづからの空虚にながくくるしみし年月を仮に青春と呼ぶ

耳よりも大きいキティのストラップ揺れて少女は突然泣いた

昼食(ひる)ひとり済ませぬとほき球場の高校生を画面に見つつ

ふだん喋る機会のない人からペンを借りおめでとうと書いて返した

庭の花グラスに挿してながめをり昼寝のあとは散歩に出でむ

みぞれ みぞれ みずから鳥を吐く夜にひとときの祭りがおとずれる

氷片がひしめくグラスくちびるをよせるたび鳴り窓にくる蝶

うつしみに鎮痛剤がはなひらく再放送のような部屋にて

その昼はパンと饂飩を食べながら腹八分目あたりで泣いた

男の子はチョコレートパフェを食べてゐる 地に下ろされた鯉のしづけさ

彼はかつて孔雀の羽に火葬場の夜を隠した じっと視ていて

鏡には光がうつり美容師の話のなかでだけ会う女の子

棄てられし自転車にしておのずから錆びたる鉄の究極を目指す

さかむけをちぎり取れない たくさんの水をかければ動かぬ歩道

きみが見えない どんな窓もきみを見るとき鏡になって

藍よりも愛はつめたし 夜の窓を右舷となしてきらめくピアノ

ひとつぶのどんぐり割れて靴底に決心のような音をたてたり

二階より眺むる街にひとびとの身に運びゆく季語の多かり

いざというとき駆けあがって逃げるため「坂」を名に持ち吾は生きおり

夜にチョコあげよう石田三成もあげよう

五階より見おろす庭に傘とかさ出逢ひてしばし画鋲のごとし

三叉路でいつも迷っているゆえに木になってしまった紅さるすべり

この世とは忘れてもよいことばかり蜆をひとつひとつ食みおり

父母がゆらゆらなづむ夕つ方サイボーグのやうにあたしは速い

空のなかから降りて来たのかみづいろの自転車風に輝いてゐる

時計より出(い)で来て踊る人形の目線は遠き夏木立かも

別るるためまことわかるるため会いて五十三年 母を葬(はぶ)りぬ

泣いたあと君の右腕枕にして線路のようにずっと恋人

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