棚木 恒寿のアーカイブ

胸うちに棲みつく獣起きるなと願ひつつ今日の会に出でゆく

電車から駅へとわたる一瞬にうすきひかりとして雨は降る

路上にて少年は踊るはだか馬のような背筋月にさらして

古い付箋の位置をずらしてまた戻す記憶のうらの蛇を見しごと

思い出が痛くて眠れぬ夜半の雨オキシドールのように沁むるよ

充電器に鎮座している携帯の何かに似ている そうだ位牌だ

白タイルのしみを這ひゐる秋虫とわれは圧(お)されて階のぼるなる

傘といふすこし隙ある不思議形にんげんはあと何年つかふ

あやまちて野豚(のぶた)らのむれに入りてよりいつぴきの豚にまだ追われゐる

馬追虫(うまおい)の髭(ひげ)のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想(おも)ひみるべし

夕さればそぞろあきりす銃器屋のまへに立ちてはピストルを見る

桔梗のむらさきのいたさ病む胸をすりよせて石の墜つる音きく

脱ぎ捨てればひとでのやうに広がれるシャツが酸つぱい匂ひを放つ

日の下に妻が立つとき咽喉(のど)長く家のくだかけは鳴きゐたりけり

もうまもなく止む雪らしい 夕刊にビニールの掩ひ懸けられてても

つの かる と しか おふ ひと は おほてら の むね ふき やぶる かぜ に かも にる

おほかたの秋くるからにわが身こそかなしき物と思ひ知りぬれ

馬は人より天にしたがひ十月のはがねのかをりする風の中

さしあたり今朝は虚無にも逢はざれば小走りに廊下行けりわたくし

けぢめなく吾のこころのおどおどとしたる恐れよ電車にをりて

悲し小禽つぐみがとはに閉ぢし眼に天のさ霧は触れむとすらむ

貝の剥き身のようなこころはありながら傘さしての行方不明うつくし

うちつけにものぞかなしき木の葉ちる秋のはじめになりぬとおもへば

忍ぶ軒端に 瓢箪は植ゑてな 置いてな 這はせて生らすな 心の連れて ひょひょらひょ ひょめくに

舗石に蠟石で字を描く子等は頭(ず)を垂れたままとっぷりと昏る

かぎり無き蜻蛉が出でて漂へば病ひあるがに心こだはる

日の沈めばうす暗き世の隅にゐていぢらしうわれ涙ぐむなり

鼻梁ひと筋(すぢ)追ひ詰むるごと顔面を剃り終へにけり寒の水にて

鬼神もあはれと思はむ桜花愛づとは人の目には見えねど

うつし身はあらわとなりてまかがやく夕焼空にあがる遮断機

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