平岡直子のアーカイブ

秋になれば秋が好きよと爪先でしずかにト音記号を描く

バレリーナみたいに脚をからませてガガンボのこんな軽い死にかた

噴水が今日のさいごの水たたみ広場に蝶やダリアさまよう

春の日のななめ懸垂ここからはひとりでいけと顔に降る花

Tシャツを千枚脱いだら目覚めたの すみやかに来てグラン・パ・ユング

四年前グアムで買った星型のにこにこシールを使い始める

ゆくりなく枯野へと鶴まひおりて風景が鶴一羽へちぢむ

トンネルとトンネルの間のみじかきに朽ちたる家を車窓は映す

くちなしの香るあたりが少し重く押しわけて夜のうちを歩めり

隠さずにどうしてそれを告げたのかはじめはまるでわからなかった

夜の道に呼ばれてふいをふりかへるそこには顔があまたありすぎ

生理中のFUCKは熱し/血の海をふたりつくづく眺めてしまう

日本中八十円切手で行くのかと訊きて息子の電話切れたり

星なのか東京なのかわからない深夜の窓に遠くを見れば

薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ

あの人が住む方(かた)より吹く風なれば風吹くだけで腫れる唇

何をしていても過ぎゆく風景に蝶番あり時折ひらく

茸、セロリ、豆腐など手に持つわれがわづかに冷ます白日の都市

まだきみに何か期待をよせていて崖の間際の街くずれそう

クリスマス・ソングが好きだ クリスマス・ソングが好きだというのは嘘だ

小松菜が値引きをされて横たわるかたわら過ぎてふと立ち戻る

人間のふり難儀なり帰りきて睫毛一本一本はづす

逆になりふたたびはじまることさえも砂時計に似た裸体を抱く

高校の夢を見ており 竹内が群れからはなれわが部屋の戸に立つ

遠き雲の地図を探さむこの町をのがれむといふ妹のため

鉄のよこたわる雨野をぬけてきたような声もつ不在者あなた

玉乗りの少女になってあの月でちゃんと口座をつくって暮らす

「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ

みづうみは夢の中なる碧孔雀まひるながらに寂しかりけり

生活がやってきて道の犬猫が差しだす小さく使えないお金

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