澤村 斉美のアーカイブ

山城のみづのみ草につながれて駒ものうげに見ゆる旅かな

三年ガラス拭かぬわれが日に五たび床を拭き床に映る鳥影

大き団扇持ちて机辺に胡坐せりむろんく-ら-はあまねかれども

声もたぬ樹ならばもっときみのこと想うだろうか葉を繁らせて

耳を切りしヴァン・ゴッホを思ひ孤独を思ひ戦争と個人をおもひて眠らず

海風は君がからだに吹き入りぬこの夜抱かばいかに涼しき

馬駆けて馬のたましひまさやかに奔騰をせり したりや! 〈葦毛〉

わが生にいかなる註をはさめども註を超えつつさやぐ青葉は

ひいやりと猫過りたり元号に先帝の死後の時間を数ふ

モデルハウスの扉(ひ)を鎖(さ)し出づるこの街の真偽おぼろに暮れそめむとす

緑蔭に〈不生不滅(ふーしやうふーめつ)〉蝉しぐれ妻と浴びをり〈不垢不浄(ふーくうふーじやう)〉

真夜中の鉄棒に手は見えざれど誰(た)が握力か残りてゐたり

灰色の空に黙(もだ)せるNIKORAIの黒き円屋根(まろやね)われも黙せる

高層ビルに浅丘ルリ子のくちびるの半ば開いて雨ふりそそぐ

ホ-ムラン打たれてがくりとつく膝の膝はやむなく意志に負けしか

かつて祖父は資産運用に敗れたり古き通帳に雨の匂いぬ

だらだらとのぼれば坂は美しい「武道館」とふ筆蹟(て)が見えてきて

おほははのなづきにしろき花ふれりことのはなべて喪はしめて

雨に濡れ夜より深き色となるスーツを干せばリビングの闇

あたらしき連れあひに媚ぶるマレー熊の映像見てをり愉快にとほく

枇杷の花ひつそりと咲く停留所に待ちつつバスは死んだと思ふ

然(さ)ういへば今年はぶだう食はなんだくだものを食ふひまはなかつた

烏帽子岩あさひに光るここを過ぎわれの呼吸のふかく乱れむ

さよならのこだまが消えてしまうころあなたのなかを落ちる海鳥

小雨降る夜の渚に傘捨てて走れるわれの ふるさとここは

ジュズダマの穂をひきぬけばひとすじの風で河原と空がつながる

途方もなく高き暗黒より落ちて来る雨水がただにデモを濡らしぬ

飛鳥仏に会いたるのちは貌という果実のひかり夕べの奥に

つばくろが空に搬べる泥の量(かさ)ほどのたのしみ君は持つらし

梅雨くればふかきみどりに揺れやまぬ肌のひかりがこの国のひかり

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