2018年06月のアーカイブ

批評めく言葉のあとのしずまりに病室(へや)に誰(た)がむく蜜柑がにおう

イソジンの一滴がうむ夕闇の喉にいつかの迷子のわたし

足裏の小さき白きが駆け抜ける土色のつち踏むわが心に

水銀の鈍きひかりに夏がゆきしまわれてゆく女のかかと

火星見えると地学部が全校放送し夜市のやうな屋上である

夢でみた場所が出てきてこの先は崖と書かれていて引き返す

食べることのできない人に贈るため花はあるのか初めておもう

七月の日照(ひでり)の庭にちひさなるとかげ光りて見えかくりする

はなびらの触れて生れたる水紋のいちばん外側のような夜

喫茶より夏を見やれば木の札は「準備中」とふ面をむけをり

黙ることは騙すことではないのだと短い自分の影踏みながら

女子とかにほらって見せればモテるから小さな崖が体にほしい

カラオケでトイレに行き戻ればそこにあなたが歌うという空間がある

飛沫(しぶき)上げ光の中にはしゃぎたるわれのやさしき歌返してよ

全人類ひれ伏せわたしの背を越して子らが世界を見たがっている

マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち

紙飛行機はいちまいの紙に戻るだろう このしずけさが恋であるなら

蝿はどの教室も好きじゃないけれど階段を下りられないのだろう

奥の歯に歯間ブラシを当ててをり真顔といふをつひに持たざる

存分に愉しみしゆゑ割れるのを待たずに捨てる緑のグラス

泣ききれず泣きやみきれず六月の空こきざみに肩をふるはす

いれものが似ているだけでなぜだろうわかりあえるとおもってしまう

鉄棒にぶらさがる子のまなざしの先ひらきたる花水木、白

戦争に見えて思わずうろたえる「食事とコーヒー」の字体が変で

青葉闇 暗喩のためにふりかえりもう泣きながら咲かなくていい

無口なる姉妹を産んで編み物も刺繍も蜘蛛のようにする母

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