石川 美南のアーカイブ

バラ咲いて五日を家にこもりけりこの朝土に花くずの嵩

もうここにおられんようになりました妻うらがえりうらがえり消ゆ

秋の陽の白く落ちつつ位置占めて石あり石は石の手触り

「わたくしが堅くし、たくし上げた和紙を託してみても白紙のままね」

みなそこに沈む平氏へ礼しては爺さま正座に魚釣りあげし

門ありて秋風ききし日はいつぞ独裁者死ぬみな急死なり

ひつじ雲それぞれが照りと陰をもち西よりわれの胸に連なる

いくたびも廻転扉(ドア)に吸はれ入り芝郵便局に新しきコスモス運ぶ

映画三つ借りて来たりぬ飛び石のように老いゆくジュリエット・ビノシュ

わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも

逃げた女逃げた心よ逃げた詩よ吾飲めば君たちが酔いにき

このゆびは人さしゆびと名づけられ星座を指した、戦旗を指した

なんだってこんなに死んだり生きたり山林に踏みつけてゆく腐葉土の嵩

怒るときも名差しができずいる父よ床の木目を見ながら怒る

一年を振り返りやがて口腔にひろがる路地を眺めていたり

のびやかな影を曳きつつ老い人は午後の日差しに出逢いつづけぬ

口内炎は夜はなひらきはつあきの鏡のなかのくちびるめくる

琥珀石透かすいつときゆふぐれは右の眼にのみ訪れぬ

奥山に淋しく立てるくれなゐの木の子は人の命とるとふ

標本ビンに茸がふとる研究室を辞める話につき合いており

蕁麻疹ちりちり熱くてねころ伏すわれにかぶさり来大き紅茸

栗茸(クリタケ)のごと月光に濡れながら造成地の道帰りてきたり

炎天下掃除のさなか後悔と仏教関係の本が湧きたり

「食べるべし大豆、納豆、豆もやし」独り暮らしの夫にメールす

満月 皺ばめる心を押しひろげ来るもの悲喜のいづれと知らず

とおからぬ日のきたるべき春に待つ、でもみみかきにひとすくいほど

舞台上いつぱいガラスの破片撒き劇中それにはいつさい触れず

あちこちで瞬くひかり人の役に立ちたいって顔をかき分け進む

なんだか、/なんだかとつても/かなしいんだ//サン・マルコ広場の人/鳩まみれ

気が付いた時には世界の中にゐて海見むと海に来るのことのあり

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