江戸 雪のアーカイブ

インフルエンザの子供は熱し 林檎摺り極々小の星出づるべし

手をつなぐかと問ふわれに君はただ笑みて水筒の紐を直しぬ

誰のこともさして恋はずに作りたる恋歌に似て真夏のうがい

螢(ほうたる)よどうすればいい 病む汝を取り戻すべくわれは点らむ

君一人置きしベンチに近づきて横顔はかくも侵し難かり

十五年借りたるのちは返すべきさみどりの長身月映に置く

数ならぬふせ屋におふる名の憂さにあるにもあらず消ゆる帚木

朝顔の絶えることなく咲きだして誰のものにもなれない弱さ

男女とは一対にしてはるかなる時間差で置く白き歯ブラシ 

一歳のむすめと乗りて鞦韆(しうせん)の果てざるひびきふるへつつ聴く

おとうとが喪服持たざる心配を息ぎれしつつ母は言うなり

無理をしてほしいと言えば会いにくる深夜かなしく薔薇を抱えて

パン選ぶ君のすがたを玻璃越しに見つめるときのわれは行人

あたまでは完璧にきみが描けるからときどきわたしは目を閉じている

しらさぎが春の泥から脚を抜くしずかな力に別れゆきたり

野生種の麦吹く風のつややかに男の腕に体毛そよぐ

花水木いつまでも見上げる君の 君の向こうを一人見ており

科学者純 焚けよと綴りし恋文が展示ケースに曝(さら)されてをり

ジュリアナ様と阿佐緒を称え綺の側に付きし石原純の不惑や

重ねればやわらかい指ぼくたちは時代錯誤の愛を着ている

そこがあなたの岬でもあるというように光翳ろうなかの頬杖

父ならぬ夫ならぬよはひの人と見る散らんとしていまだ散らざるさくら

清らかにカンガルーポケットに指かけてああ服の下には体があるね

ゆきたりと知りて極まるさびしさのなか揃へある赤きはきもの

ルーベンスの薔薇色の雲わが手には君の重たき上着が眠る

この夜更(よふけ)さくらさくらを歌ひなばいかなる腕にわれ抱(いだ)かれむ

春の海。誰も見てないテレビから切れ切れに笑い声は響けり

指切りのゆび切れぬまま花ぐもる空に燃えつづける飛行船

子を守ることよりほかは道楽と思ひいたれば心安らぐ

〈あげた愛〉〈ほしい愛〉とのバランスを計りかねてるセーの法則

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