Archive for the '今日の一首鑑賞' category

透明な魚を硝子の鉢に飼ふ少女は病める脊髄もちて

わたしここで何やってんのと呟けばハイヴァン峠にたなびく霞

わがうちに崩壊しゆくものの音聞ゆるごとく窓に月照る

うすぐもる青葉の山の朝明にふるとしもなき雨そそぐなり

うみのほとり青の光につつまれて神はしだいに遠のきたまふ

海色のききょう咲きたりぽぽぽんと夫の告別より戻り来たれば

かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は

蝶なりしころの記憶が湧き出でてスティック糊がころんとうごく

幻燈に青く雪ふる山見えてわれにこと問うかえらざる声

つたかづら生き生き家を巻き締めて閉ぢこめられし仏壇ひとつ

死後の世界はないと唱えしホーキング博士は死にて車椅子残る

いかにせん雲の行くかた風のおと待ちなれし夜に似たる夕べを

あなただけ方舟に乗せられたなら何度も何度も手を振るからね

存在を海にうかべるほかはなく船はまぶしく窓辺を揺らす

はなびらは花にはぐれてゆくものをいめゆ取り零されし残月

六月の朝のくもりを雀とぶそらより土に土より空へ

存在と存在の名はひびきあい棕櫚の葉擦れの内なる棕櫚よ

なほざりに山ほととぎす鳴きすてて我しもとまる杜の下かげ

おもちゃ売り場の階までのこと階のこと記憶のどこをあたってもこわい

何にしろ今のままではいられない遡上する鮭の群れに加わる

寺院シャルトルの薔薇窓をみて死にたきはこころ虔しきためにはあらず

行き先の表示つければそこまでは行くバスに身を任せたり

ひとり きて しま の やしろ に くるる ひ を はしら に よりて ききし しほ の ね 

なかなかに 鳥けだものは死なずして、餌ばみ乏しき山に 聲する

花くたしいたくな降りそ新墓の猫の柔毛に滲みやとほらむ

さびしさの単位はいまもヘクタール葱あおあおと風に吹かれて

春の岬旅のをはりの鴎どり
うきつゝとほくなりにけるかも

雪を拂ひ 乗りてはおり行く人を見て、つくづくと居り。汽車のひと日を

何といふ死のまぶしさよ道の辺の馬酔木の花は陽にけぶりゐて

木漏れ日を浴び続ければ白樺の木になりそうなほどひとりなり

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