Archive for the '今日の一首鑑賞' category

うつしみに鎮痛剤がはなひらく再放送のような部屋にて

その昼はパンと饂飩を食べながら腹八分目あたりで泣いた

男の子はチョコレートパフェを食べてゐる 地に下ろされた鯉のしづけさ

彼はかつて孔雀の羽に火葬場の夜を隠した じっと視ていて

鏡には光がうつり美容師の話のなかでだけ会う女の子

棄てられし自転車にしておのずから錆びたる鉄の究極を目指す

さかむけをちぎり取れない たくさんの水をかければ動かぬ歩道

きみが見えない どんな窓もきみを見るとき鏡になって

藍よりも愛はつめたし 夜の窓を右舷となしてきらめくピアノ

ひとつぶのどんぐり割れて靴底に決心のような音をたてたり

二階より眺むる街にひとびとの身に運びゆく季語の多かり

いざというとき駆けあがって逃げるため「坂」を名に持ち吾は生きおり

夜にチョコあげよう石田三成もあげよう

五階より見おろす庭に傘とかさ出逢ひてしばし画鋲のごとし

三叉路でいつも迷っているゆえに木になってしまった紅さるすべり

この世とは忘れてもよいことばかり蜆をひとつひとつ食みおり

父母がゆらゆらなづむ夕つ方サイボーグのやうにあたしは速い

空のなかから降りて来たのかみづいろの自転車風に輝いてゐる

時計より出(い)で来て踊る人形の目線は遠き夏木立かも

別るるためまことわかるるため会いて五十三年 母を葬(はぶ)りぬ

泣いたあと君の右腕枕にして線路のようにずっと恋人

何をみても何を聞いても掘割のむこうの木さえ動かぬものを

花束を買ふよろこびに引きかえて渡す紙幣はわづかに二枚

水飲めば水さむざむと胃にいたる人を憎みてありし一日か

純白のヨーグルトムースのうへにのるペパーミントの栄光と孤独と

批評めく言葉のあとのしずまりに病室(へや)に誰(た)がむく蜜柑がにおう

イソジンの一滴がうむ夕闇の喉にいつかの迷子のわたし

足裏の小さき白きが駆け抜ける土色のつち踏むわが心に

水銀の鈍きひかりに夏がゆきしまわれてゆく女のかかと

火星見えると地学部が全校放送し夜市のやうな屋上である

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