棚木 恒寿のアーカイブ

わが体が、のうっと高く/伸びるごとくおもはれて、/ふいと佇みし。

見ることなきはらわたなどを思うとき恥多き身が立ちあがりたり

救急車が通り過ぎたら右肩がカパッと開いてカプッと閉じた

病むわれをなぐさめがほに開きたる牡丹の花を見れば悲しも

さ夜ふけていくさの塲(にわ)にきて見ればほむらたちのぼる屍(しかばね)の上

紫の理想の雲はちぎれぎれ仰ぐわが空それはた消えぬ

熱を病むわが子の脈をさぐりつゝ窓ごしに見る日まはりの花

「行つて来ます」言はずに登校したる子の茶碗のねばねばいつまでも洗ふ

はすかひに簷(のき)の花合歓(ねむ)うつしつつ化粧鏡は昏(く)れのこりたり

お詫び

この夕べ片附け終へし文机にあはあはと置く埃を拭かん

カレンダーを家族の予定で埋めし日々終りていまは詳しく知らず

嘴赤き小鳥を愛でゝしろ銀の皿に餌をもるゆく秋の人

しらしらと老のしら髪ぞ流れたる落葉のなかのたそがれの川

池水はすり鉢状に渇水し搏動(いき)のごときを岸辺に刻む

どんよりと空は曇りて居(お)りたれば二たび空をみざりけるかも  

五月雨に物思ひをれば郭公夜ぶかくなきていづちゆくらむ

いるんだろうけど家に入って来ないから五月は終わり蚊を見ていない

かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり

夏にみる大天地(おおあめつち)はあをき皿われはこぼれて閃く雫

蔽はれしピアノのかたち運ばれてゆけり銀杏のみどり擦りつつ

冬の医師とわれは思へり椅子ひとつ持ちきて夕べ白くゐるひと

けものらは滴(しず)ける闇に骨を解き冬の韻(ひび)きのとおく聞こゆる

芋切り干しの端を噛みつつ見上ぐれば晴れわたる空に恥じらいはなし

くれなゐの薔薇(ばら)のかさねの唇に霊の香のなき歌のせますな

木の柵に進入禁止と記さるる言葉の後ろに回つてみたり

心とはそれより細きひかりなり柳がくれに流れにし蛍

高雲は夕映えしつつ鉄筋のアパートが曳く影の鋭角

梨の実は固きままにて熟しゆく花びら落ちし日の清しさに

立葵われにすこしの過去ありぬ帽子をやめて日傘をひらく

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