棚木 恒寿のアーカイブ

シルクロード展を出できて見る青葉嬰児のミイラ永遠(とわ)に乾ける

小禽(ことり)の人にさからふくちばしををりふし汝に見ればさびしき

証明写真と同じわが顔嵌まりたり帰り来て入る部屋の鏡に

爆音のきはまるときに首のべて大気の坂を鉄のぼりゆく

さびしくて渡りにゆくよ真夜中にふくらみながら橋は待ちたり

絆創膏二つ貼りいる左手の指より初夏の朝が始まる

沈黙は苦手といふより恐怖なり 顔まつしろな牛がひしめく

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る 其の八重垣を

わが書きし記事のたぐひや日日の排泄に似てただ忘れたき

多摩川の土手を光らせ無防備な季節は腕を組んでやって来る

帰宅してあかり灯せばくらやみが箪笥のすみに逃げ込むところ

貴人(あでびと)は誰よりうけし勢力(いきほひ)ぞわれに詩あり神の授けし

軋みつつ人々はまた墓碑のごとこの夕暮れのオールを立てる

掌のとどくはるかな位置に黒曜の髪の澄みつつ少年のあり

君の髪に十指差しこみひきよせる時雨(しぐれ)の音の束の如きを

アスファルトから靴を引き抜くゆらゆらと炎天の首都ただひとり行く

ひばりありがとうほととぎすありがとう手をふりながら年老いてゆく

瓶にさす藤の花ぶさみじかければたゝみの上にとゞかざりけり

わら灰をつくりて心しづまるを帰りし家に感じつつ居る

扇風機うごきてさらにむしあつし電車に立ちてわが運ばるる

寝てきけば春夜(しゆんや)のむせび泣くごとしスレート屋根に月の光れる

むらさきの桐の花骸(はながら)を累々と敷きたるやうな夕雲にあふ

われ主流きみ反主流なかぞらの梢へだてて咲く紫木蓮

人間の生膽(いきぎも)を取る世となりて紅葉(もみぢ)の錦神のまにまに

驟雨に濡れし鉄骨の乾く時われは感情の処理にとまどふ

凍てつきし地(つち)に正午の光澄みものの象を残しつつ溶く

ヒヤシンス薄紫に咲きにけりはじめて心顫ひそめし日

おどろきて歩み逃げ去る丹頂は頸さし伸べて描かれにけり

連続通り魔出没せしとふ路地の辺にうち捨てられたる扉(ドア)いち枚

氷塊に映りておれるわがからだ輝く鋸(のこ)に引かれはじめつ

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