一ノ関忠人のアーカイブ

地獄酒極楽酒のけじめなく二升たちまち火の粉となりぬ

まむかへば天そそり立つ足助山寄りくるごとくいよよきびしく

いづくにかわれは宿らむ高島の勝野の原にこの日暮れなば

やがて来む終の日思ひ限りなき生命を思ひほゝ笑みて居ぬ

平安のかたちを保ちゐし雲の夕されば涅槃のいろにくづれぬ

天道をうつらうつらと渉りゐる日はふるさとへこころをはこぶ

雨暗く/部屋の明かりが輝けり/甦りといふことを思へる

貴重な終身刑の残り日を素直に生きむひと日ひと日を

まだまだとおもいてすごしおるうちに はや死のみちへむかうものなり

おもしろきこともなき世におもしろくすみなすものは心なりけり

君がためつくす心は水の泡消えにし後ぞすみ渡るべき

いまよりはなるにまかせて行末の春をかぞへよ人の心に

すくすくと生ひたつ麦に腹すりて燕飛びくる春の山はた

朴の木の芽吹きのしたにかそかなる息するわれは春の山びと

霞立つながき春日に子供らと手毬つきつつこの日暮らしつ

あかげらの叩く音するあさまだき音たえてさびしうつりしならむ

みほとけ の うつらまなこ に いにしへ の やまとくにばら かすみて ある らし

くわんおん の しろき ひたひ に やうらく の かげ うごかして かぜ わたる みゆ

ゆく春や とおく〈百済〉をみにきしとたれかはかなきはがききている

草原を駈けくるきみの胸が揺れただそれのみの思慕かもしれぬ

春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ

沈み果つる入日の際にあらはれぬ霞める山のなほ奥の峰

深山木のその梢とも見えざりし桜は花にあらはれにけり

白玉の美蕃登をもちて少女子は夜咲く花の嘆きするらむ

四月七日午後の日広くまぶしかりゆれゆく如しゆれ来る如し

石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも

萱ざうの小さき萌を見てをれば胸のあたりがうれしくなりぬ

たれこめて春の行方も知らぬ間に待ちし桜もうつろひにけり

水漬く屍と死ぬべかりしを生きつぎて穢汚の裡に在るが宜しも

信濃路に帰り来たりてうれしけれ黄に透りたる漬菜の色は

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