光森裕樹のアーカイブ

こうやって母もぼんやり眺めてたやかんの湯気が激しく沸つを

「ナイス提案!」「ナイス提案!」うす闇に叫ぶわたしを妻が揺さぶる

最上階のラウンジからの東京を宝石箱と呼んでいた頃

さようなら昼のアイロンこの家はもっと軽くていいはずだから

先生が指さすものをドイツ語で、いす、りんご、カーテン、これは、風

みなと風 吊り広告を取り替えるひとの眼鏡に虹は映れり

真夜中の電話口にて君に言う「死にたい」以外は全部嘘です

いましねばこれが遺影に使われる瞳にひかりがひしめくプリクラ

林檎ほどの火にてポットを温めつきみの聴けざるきみの寝言よ

なめらかなわたしの腕を撫でる手がわたし以外にあるべき、九月

ひとしきり思いを馳せる 自販機のしくみに まだ見ぬきみの新居に

昔からあった感じの葬儀屋の戸前にドライ・アイス・ボックス

アトラクション終わるみたいに叡電が出町柳のホームに参ります

誤って世界から離脱しないようわずかな尿意を残して眠る

救命の練習用の人形に雑にあけられている耳穴

そういえばもう長いこと空(青いやつです)色の空を見ていない

逝きかけの蟬を励ますこの夏にとくに未練はないはずなのに

獏たちが来たときに差し出す夜を祈りと思い出に分けておく

初雪が降ったみたいに顔を上げおそらく震度3のファミレス

一九八四年九月六日蒲田女子高裏窓の少女たち

きみの持つ釣りざお見ながらゆく港 寒い そうだね噓みたいだね ね

中学生のカップルねむるシアターが映し出すマイケル・J・フォックス

でもそれでいいんだとてもみぞれ降る二月のことを聞かせてほしい

年末の十億円が当たったら/当たらなくてもバイトは辞める

バス停はもう水浸し来ないなら来なくてもいいから待っている

薄暗い頃に目覚めてジャスミンの香りに喉をしめらせてゆく

うまく言えたためしがないなそのままのあなたにもわたしにも吹く風

底辺を高さと掛けて二で割ったことを私は必ず許さない

朝顔は咲かなかったし約束も守れなかった ブローチを刺す

ゆつたりと生きゆく人とゆつたりと死にゆく人が花の真下を

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