岩尾淳子のアーカイブ

赤レンガの敷かれたる道その筋目たどれば果てのなきあみだくじ

鳥のように木の間を分ける黒揚羽 思い出はもう庭に来ている

あたたかき日に氷片のごとき日をはさみて冬のはじめ子は癒ゆ

檜の香部屋に吹きみち切出しの刃先に夏の雨ひかりたり

拾い読みして戻すその本の背文字が光りその本を購う

ダンカンのように思わぬ死のもしやわれにあるやも 夜の水飲む

北岸に暮らしていても晴れた日は眉山が見えて窓に呼ばれる

手をとめて入り日に頭を下げてゐし父よミレーの晩鐘知らず

わたしここで何やってんのと呟けばハイヴァン峠にたなびく霞

うすぐもる青葉の山の朝明にふるとしもなき雨そそぐなり

海色のききょう咲きたりぽぽぽんと夫の告別より戻り来たれば

蝶なりしころの記憶が湧き出でてスティック糊がころんとうごく

つたかづら生き生き家を巻き締めて閉ぢこめられし仏壇ひとつ

いかにせん雲の行くかた風のおと待ちなれし夜に似たる夕べを

存在を海にうかべるほかはなく船はまぶしく窓辺を揺らす

六月の朝のくもりを雀とぶそらより土に土より空へ

なほざりに山ほととぎす鳴きすてて我しもとまる杜の下かげ

何にしろ今のままではいられない遡上する鮭の群れに加わる

行き先の表示つければそこまでは行くバスに身を任せたり

なかなかに 鳥けだものは死なずして、餌ばみ乏しき山に 聲する

さびしさの単位はいまもヘクタール葱あおあおと風に吹かれて

雪を拂ひ 乗りてはおり行く人を見て、つくづくと居り。汽車のひと日を

木漏れ日を浴び続ければ白樺の木になりそうなほどひとりなり

囀りの声すでに刺すごとく森には森のゐたたまれなさ

いにしへに恋ふる鳥かも弓弦葉ゆづるはのみ井の上より鳴き渡りゆく

罌粟咲けば罌粟にあふるるおもひありてひと日陶器のごとく過ぐさむ

五十年使い慣れたるこの辞書のやぶれかぶれの我の老年

閉店のやさしい音楽が流れて、旅を勧めてくる雑誌を閉じる

まあそこに居つたらええよ、なんとなくほつと咲いてる木瓜とわたしと

沼に沈む悲しき馬の嘶きを聞きてあわてて絵本を閉ぢる

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