岩尾淳子のアーカイブ

六月の朝のくもりを雀とぶそらより土に土より空へ

なほざりに山ほととぎす鳴きすてて我しもとまる杜の下かげ

何にしろ今のままではいられない遡上する鮭の群れに加わる

行き先の表示つければそこまでは行くバスに身を任せたり

なかなかに 鳥けだものは死なずして、餌ばみ乏しき山に 聲する

さびしさの単位はいまもヘクタール葱あおあおと風に吹かれて

雪を拂ひ 乗りてはおり行く人を見て、つくづくと居り。汽車のひと日を

木漏れ日を浴び続ければ白樺の木になりそうなほどひとりなり

囀りの声すでに刺すごとく森には森のゐたたまれなさ

いにしへに恋ふる鳥かも弓弦葉ゆづるはのみ井の上より鳴き渡りゆく

罌粟咲けば罌粟にあふるるおもひありてひと日陶器のごとく過ぐさむ

五十年使い慣れたるこの辞書のやぶれかぶれの我の老年

閉店のやさしい音楽が流れて、旅を勧めてくる雑誌を閉じる

まあそこに居つたらええよ、なんとなくほつと咲いてる木瓜とわたしと

沼に沈む悲しき馬の嘶きを聞きてあわてて絵本を閉ぢる

ゆらゆらとわれの寝覚めし朝焼けはほのおのようなダリヤのような

壁のそばに葉が揺れてゐる葉のうらに風が光つてゐる五月であるも

てふてふが一匹東シナ海を渡りきてのち、一大音響

あした産む卵を持ったままで飛ぶ 燕は川面すれすれにとぶ

キリストの生きをりし世を思はしめ無花果いちじくの葉に蠅が群れゐる

時々、ひばりは空にのぼりゆき人間のすることを見るのです

ジャングルジムに少年たちがぎっしりと本を読んだりぶらさがったり

隼人はやひとの薩摩の瀬戸を雲居なす遠くも吾はけふ見つるかも

春の獅子座脚上げ歩むこの夜すぎ きみこそはとはの歩行者

あそぶごと雲のうごける夕まぐれ近やま暗く遠やま明し

三宮、元町過ぎてさびしかりうすくけぶれる山側に出て

ことごとく人眠らせて国道を観光バスは過ぎてゆきたり

どのやうな手もやはらかにしてくれるクリームください焚火の色の

星あかりのわずかに届く闇を来てものやわらかな音楽ひとつ

ひとりぼろタクシーのなかで、へし折れたやうな街の後ずさるのを感じた

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