岩尾淳子のアーカイブ

咽喉ふかくうるほしうるほし生きてゆく目白も日雀も四十雀はも

べつべつに絵を視ることになれてゆく河口のやうな午後のうすら陽

鉛筆のごとく心はとがりゆき朝の道路がまっすぐになる

紅い薔薇が一本風に飛ばされて陽のなかのフイッツジェラルドの墓

お父さん大嫌いって子に言われしばらく蜜柑がむけなかった

みずうみの岸にボートが置かれあり匙のごとくに雪を掬いて

星が行く道のながてを何となく夫の名前を呼びたくて呼ぶ

麵麭を買ひ「ma mère est morteママが死んだ」と言ふ我に野の風のごとうなづくダミアン

ついさっき裸の馬が駆け抜けたそんな二月の午前五時半

椽臺に帽子を脱ぎて仰ぎ見るその紅葉もみぢの木このもみぢの木

おとなしく人の流れにはこばれて道具屋筋で脇にそれたり

かどやなぎあかるくきて広池ひろいけの向うをとほる滊車きしゃあらは

明けきらぬサントス港に船出待つニュークロップが青く匂へり

ベビー服のうえを模様が通りすぎ赤ちゃんはみな電球のよう

きまかせに七羽はうごく刻々と水のおもての景かへながら

跳ねてゐる金魚がしだいに汚れゆく大地震おほなゐの朝くりかへしみる

憧れのなくなりしことが微かなるあこがれとなり生かされてゐる

大丸のビルへ垂直にそらぞ垂るそらはざらざらの手触りであり

菓子ぱんのふうわりあるのが砂濱の夜に弾力となり椅子たのしくす

ゆくバスの窓に見てゐる大阪の続きのごときベルリンの記憶

ひつじたちは佇ちながら
草をはむ 無言を
古着のように羽織って

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