吉田隼人のアーカイブ

腐れたるうをのまなこは光なし石となる日を待ちて我がゐる

ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり

魂は人にむくろは我に露ながら夏野の夢のなごり碎くる

妖怪はいて怪獣はいなかった 帽子を脱いで沼を見ていた

きっぱりと降りる初霜 わたくしの嫌うひとにも苦しみはある

茫然と来りてまなこひきしむる生きいそぐもの蝶のいとなみ

壜詰の蟻をながしてやる夜の海は沖まで占領下なり

透明な魚を硝子の鉢に飼ふ少女は病める脊髄もちて

わがうちに崩壊しゆくものの音聞ゆるごとく窓に月照る

うみのほとり青の光につつまれて神はしだいに遠のきたまふ

かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は

幻燈に青く雪ふる山見えてわれにこと問うかえらざる声

死後の世界はないと唱えしホーキング博士は死にて車椅子残る

あなただけ方舟に乗せられたなら何度も何度も手を振るからね

はなびらは花にはぐれてゆくものをいめゆ取り零されし残月

存在と存在の名はひびきあい棕櫚の葉擦れの内なる棕櫚よ

おもちゃ売り場の階までのこと階のこと記憶のどこをあたってもこわい

寺院シャルトルの薔薇窓をみて死にたきはこころ虔しきためにはあらず

ひとり きて しま の やしろ に くるる ひ を はしら に よりて ききし しほ の ね 

花くたしいたくな降りそ新墓の猫の柔毛に滲みやとほらむ

春の岬旅のをはりの鴎どり
うきつゝとほくなりにけるかも

何といふ死のまぶしさよ道の辺の馬酔木の花は陽にけぶりゐて

窓のそとに木や空や屋根のほんとうにあることがふと恐ろしくなる

雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ

さざなみの下はあかるき死の広場白き脊椎を曳きたる頭蓋

おうどんに舌を焼かれて復讐のうどん博士は海原をゆく

いななきて馬はめざめぬみすずかる信濃高原しなのたかはら雪真白なり

「東京に生まれることも才能」と言いし人ありわれもしかおもう

はかなしな夢にゆめみしかげろふのそれもたえぬる中の契は

新月はまだ宵ながららむとす星のひかりの空にさやけき

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