中津 昌子のアーカイブ

日昏れ来る 黒き帽子をかむりたる紳士の群れの降り立つやうに

子らははや遊びを止めて色赤きビニールプール西日に乾く

くしゃくしゃな引越しの荷の中に見し妻が旧姓のあるペンケース

みんみんといふ蟬のこゑ身にしみて聞きゐし午睡(ごすゐ)以前の世界

家近くなりて次第に不機嫌となりゆく吾の心あやしも

ふり仰ぐ一生(ひとよ)半ばの夏空をよろこびとせむ 私(わたくし)祭

母と子が互ひを責めてゐるやうな袋の小茄子触れては鳴りぬ

ここはまだ平和ですのと咲いているひまわり風にゆれるひまわり

うらを焙りおもてを焙りまたうらを焙ればゆめの色なるするめ

さらさらと真水のような飲み物を飲み終えて今日も齢を取らない

旨(うま)き物食(たう)ぶる顔のやさしきを恋ふるこころに旨き物もがも

一枚の襖にすがるがに立てり母を支ふるいちまいふすま

何にすといふならねども輪ゴム一つ寂しき夜の畳に拾ふ

夕闇にわずか遅れて灯りゆくひとつひとつが窓であること

つるつるに頭を剃っておりますが僧の中身は誰も知らない

ふるさとの土蔵の壁にかの日より立てかけられてある捕虫網

深き空ゆ吐息のごともおり来たる風ありて枇杷の葉むらをわかつ

沈黙は金か、金なら根刮(ねこそ)ぎに略奪されしピサロの金か

わが指の頂にきて金花虫(たまむし)のけはひはやがて羽根ひらきたり

寝そべりて恋の歌読む古き代(よ)のたはごとなれば美しき歌

東洋人ひとりだけなる会議にてしやべらねば塑像とまちがはれさう

トンネルの奥処に次の駅見えてあるいは全(また)きひかりの発芽

果樹園のなかに明日あり木柵に胸いたきまで押しつけて画く

われよりもしずかに眠るその胸にテニスボールをころがしてみる

晴れ上がる銀河宇宙のさびしさはたましいを掛けておく釘がない

捕へたる蜘蛛をかまきりは食はんとす優位なるものの身の美しく

ぼくたちは時間を降りているのかな膝をふわふわ笑わせながら

水際には死ぬために来し蜂の居てあわれわずかにみだりがわしき

熱帯の蛇展の硝子つぎつぎと指紋殖えゆく春より夏へ

愛し抜かざりし青春よ山に来て鳥や獣のこゑが悼みくるる

月別アーカイブ


著者別アーカイブ