中津 昌子のアーカイブ

どこに行けば君に会えるということがない風の昼橋が眩しい

はさみで切って使いきられたねりからしチューブみたいな俺を愛せ

「いとよろし いといとよろし」残りたる歌評快晴明治あけぼの

いつしんに樹を下りゐる蟻のむれさびしき、縱列は橫列より

右へでも左へでもなだれ打つときの「群」といふもののその怖さつたら

鉄棒の上に座って口喧嘩 くるんとぶら下がって口づけ

野の雨に揺れたつ朴のくらぐらと一つの花が大きくありし

或いは危ふからずや鯉が上下(うへした)に擦れ違ふときの感覚なども

文明開化に置いてけぼりを喰ふほか無し一点一画文字書くやうでは

かかかんと指で茶筒を鳴らしおり泣きたい俺はどこにいるのか

椅子に居て我れは未来を待つならず寄りも来ぬべきいにしへを待つ

昔語りぽおんと楽し大きなる女が夫を負うて働く

日が歩(あゆ)むかの弓形(ゆみなり)のあを空(ぞら)の青ひとすぢのみちのさびしさ

陰(ほと)に麦尻に豆なる日本の神話の五月るるんぷいぷい

夕闇に消えかかる手はほてりつつ水溜りよりつばめをひろふ

パパイアの種子を刮(こそ)いでいた指を口中に入れ雨を感じる

残酷な包みをあけた日があつた 花水木、風に白をかかげて

にっぽんはうつくしい国あらかじめうしなわれたるうつくしい国

「青ですね」「青ですね。でもわたしたち歩行者ではありま「赤ですね」

「一つづつ」と決められて書く志望書の長所と短所縦長の文字

父母はなく君なく子なくひとりなる実感もなし春ふかきかな

いのちひとつただありがたく保たむにその他無用といふにもあらず

我が腕に溺れるようにもがきおり寝かすとは子を沈めることか

怒(いか)る時/かならずひとつ鉢を割り/九百九十九(くひやくくじふく)割りて死なまし

埃吹くモスクに立てば屈葬の形に人ら礼拝をなす

薄日さす午後の階段しおからい耳たぶを持つあなたとのぼる

枕辺の目覚時計に重なれる手と手に今日が始まらんとす

提案に補足がありてみづみづしかる截り口は見えなくなりつ

霧のごときあはき思ひが湧きやまぬ良いのだらうか思慕と呼んでも

人と見し夜の桜に仄かなる色ありしことまた夢に顕つ

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