中津 昌子のアーカイブ

大川を流れる水のゆくすえを都市遊民の夢のあわれを

つばなの野あまりあかるく光るゆゑこの世の伴侶はだれにてもよし

どうやったら金持ちになれるのだろう朝焼けが空を知らない色にしている

青雲の恋のつづきと思うべく肩にかかげる男児(おのこ)の一軀

〈いちめんのなのはな〉といふ他なきを悔しみ菜の花の中にゐる

一枚の葉書をかいてポストまで 大きな春があとついて来る

十四日お昼すぎより歌をよみにわたくし内へおいでくだされ

野獣派のマチスの「ダンス」手を繋ぐときあらはれる人間の檻

子の描きしクレヨンの線ひきのばし巻き取り母のひと日は終はる

娘と妻はいさかいながらもどり来ぬ洋服購いて春の街より

「なにもなにも小さきものはみなうつくし」日向(ひなた)で読めば桃の花ちる

ぐあんぐあんと庭のバケツが笑う日はふとんをかぶって寝ることにする

春靄に濃くつつまれてうづくまる翁は抱けり零の明るさ

みづからを日日解き放てよ大空へおのれほどけてみなぎらふまで

同性を愛するけもの在りと聴き冬のくちびる水に寄せたり

出くはせる牛におどろき跳びのきし大松達知(たつはる)都会つ子なり

けものらは滴(しず)ける闇に骨を解き冬の韻(ひび)きのとおく聞こゆる

「嫌(や)な子だね」吾(あ)に母言へりうからとの写真も直立不動の姿勢

夕闇に人を渡してひとときはまぶしきものか如月の橋

如月(きさらぎ)の雨は時どき温(ぬく)く降る八つ手の花たちぱちぱち弾む

ちちのみの父の見のこしし夢ならむ咲きいそぎたる梅に雪降る

杉山に雪降りつづきなんでこう水墨画めく視界であるか

かぼすの酸残れる指に編む帽子はじめて冬を迎うつむりに

石(いは)ばしる垂水(たるみ)の上のさわらびの萌(も)え出づる春になりにけるかも

こうやって母もぼんやり眺めてたやかんの湯気が激しく沸つを

厚らなる手の感觸はあくしゆせる時以後夜のいねぎはまでも

モルワイデ図法の地図にゆがみゆく極東といふさびしさのきはみ

雪の夜は雪のむかうにもうひとつ街あり馬に乗る人がゆく

母語圏外言語状態(エクソフォニー) この美しき響きには強風に立つ銀河が見える

夜の梢ふかぶかとせる地上にて少年が少年とボール投げあう

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