黒瀬 珂瀾のアーカイブ

ノウミソガズガイノナカデサドウシテセカイハイミトコトバニミチテ

手品師の右手から出た万国旗がしづかに還りゆく左手よ

ときおりは呼びかわし位置を確かむる秋の林に家族は散りて

大馬(おほうま)の耳を赤布(あかぬの)にて包みなどして麥酒(ビイル)の樽(たる)を高々はこぶ

〈姦〉なしてマヌカン積まれしコンテナ車過ぎしか不意に寒ふかき夕

燠のごときひかりと思うガラス戸に身をつけて見る闇の海の灯

うるわしく人を憎んだ罰として痒みともなう湿疹が生(あ)る

才われにすこし劣りて姿よき友と啖へり朝引きの鶏

殺される自由はあると思いたい こころのようにほたる降る夜

つぎつぎとフォルダに来るspam mailさむい鷗の群れかも知れず 

障子戸がひらきむかしのいとこたちずさあっとすべりこんでくる夜

今夜どしゃぶりは屋根など突きぬけて俺の背中ではじけるべきだ

涅槃図の鳥獣のごと野に立てばまた逃げ水の父あらはるる

全うするとはいかなることかくれがたの防火バケツに降り込むみぞれ

木の影の塀をつたひてくる夕べ自転車を押すは吾が父ならん

テーブルを挟んでふたり釣り糸を垂らす湖底は冷たいだろう

小さめにきざんでおいてくれないか口を大きく開ける気はない

池の面にさし出でし桜の幹に鳴く遠世のごときひとつかなかな

うす青き朝の鏡にわが眉の包むにあまるかなしみのかげ

つまらなき世辞をさびしみ樹を下る一匹の蟻をわれは見ていき

背中から十字に裂ける蝉の殻 生きゆくは苦しむと同義

白桃の和毛(にこげ)ひかれり老いびとの食みあましたる夢のごとくに

なにとでも呼べる気持ちの寄せ植えにきみの名前の札をさしこむ

心強く生きがたきかな晩夏光輝く茄子の畑にゐたり

てのひらにつつむ胡桃の薄緑この惑星に子よ生れてくるしめ

地球規模で淋しいのですアボカドの茶色の種がなかなか取れず

殺したき男ぐらぐら煮てゆけば口あけて貝のごとき舌見ゆ

あやまちて野豚(のぶた)らのむれに入りてよりいつぴきの豚にまだ追はれゐる

ホイッスルに咎められつつ駆けぬけぬゼブラゾーンの水はねかへし

どうしても抜けぬ最後のディフェンスは塩の色した夏だとおもえ

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